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短いお話
月とコーヒー 吉田篤弘
24の短いお話、とるにたらないもの、忘れられたもの、世の中の隅の方にいる人たちの話とあります。過剰にならず、静謐だけど、なぜか心に沁みる話。
よく思いつくな思います。名前とかストーリーとか、個人的に「三人の年老いた泥棒」よかったです。装幀・装画・挿絵、言うに及ばず。
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たまには短編も
海の十字架 安部龍太郎
帯にある「まったく新しい戦国史観!」というのはちょっと言いすぎ。横瀬、宗像、鯏浦、由良、津軽、佐渡へと、「蝦夷太平記 十三の梅」や「宗麟の肖像」などと同じ時代、地域、人を別の視点で描いた短編六編。長編に結実すると嬉しいですが、「家康」の第3巻も待ち遠しい。
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探し続けて
すごい詩人の物語
山之口貘詩文集 人生をたどるアンソロジー 山之口貘昨年の7月19日(著者の命日)に発行されたアンソロジー、なかなか読めなくて、やっと読みました。丁寧なつくりの、行き届いた本です。
詩はもちろんいいんだけれど、時代を感じさせる言葉が、吟味され削られていることで、今ではわかりづらいところもあって、むしろ小説の方がわかりよい。歌になった詩はまだわかりやすい。「唇のやうな良心」とかいいです。
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第162回芥川賞
背高泡立草 古川真人
草刈りからどんどんイメージが膨らんでいく筆力は認めますが、何か大きな物語の一部ならまだしも、エピソードが私の中では結びつかなかった。
言葉はだいたいわかるが、過去にいけばいくほど絵空事のようで、こちらで構築せよということか?背高泡立草も以前ほど見ないし。
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トレジャーハント
桃源 黒川博行
トレジャーハントへの出資詐欺を追いかける大阪府泉尾署の刑事新垣と上坂。いつもながらに地名と説明の書き込みが半端じゃないので、大阪人である私はニンマリしっぱなし。それでいて、肝心なところは特定されないようにアバウトにおいてある、職人技ですね。
蛇足 大阪に泉尾と藤井寺は存在しますが、大阪府警に泉尾署と藤井寺署は実在しません。